2015年7月23日木曜日

ヒューイ・ルイスはお好き? 『アメリカン・サイコ』

『アメリカン・サイコ』(2000年/メアリー・ハロン監督)
【あらすじ】
ヒューイ・ルイスは聴かないだって? ふざけんな、ぶっ殺す!

ジェネレーションXを代表する作家ブレット・イーストン・エリスによって書かれた原作小説は、持ち込まれた出版社があまりの残虐度に恐れをなして出版を拒否した、という曰く付きのシロモノです。(その後、91年に別の出版社から発表されました)
故に、映画化も困難を極めたのですが、音楽ジャーナリスト出身の監督メアリー・ハロンは、原作から可能な限り残酷描写を取り除き、風刺的であることに努めたらしいです。

結果、出来上がったのは、爆笑必至、ブラックコメディの傑作。
80年代後半のバブリーな状態を、空虚なカラッポの世界として見事に描き出し、それに絶え切れず、脳内が野性の雄叫びをあげて崩壊する主人公、パトリック・ベイトマン(クリスチャン・ベイル)の勇姿!腹かかえて笑うってモンですよ。

人間が野性であることの証明、それは人殺しだ!
ベイトマンが『悪魔のいけにえ』(74年/トビー・フーパー)を観ながら筋トレをしているのは、単なる偶然ではありません。
『悪魔のいけにえ』がフィジカルな痛みを生々しく描き、絶えず彼を触発するからです。
だから彼は、チェーンソーを持って娼婦を追い回しちゃうんですね(笑)
ちなみに、原作のベイトマンは『ボディ・ダブル』(84年/ブライアン・デ・パルマ)を37回もレンタルしたという映画バカなエピソードを持っておりまして、それ故にチェーンソーを使用しています。


さて、映画の重要なファクターとして名刺があります。
紙質や書体にこだわる名刺自慢ばかりが取り沙汰されますが、最大の風刺は、誰もが肝心の名前自体にはまるで関心がないこと。
自分にしか興味がなく、同じクラブに通い挨拶する仲なのに相手の名前を把握していないのです。

クライマックスで、ベイトマンの弁護士ハロルド(スティーヴン・ボガール)は10日前にポール(ジャレッド・レト)と食事をしたと言います。
でも、俺は彼を殺したんだよ!
さて、どちらが本当でしょうか?
その前に、ハロルドはベイトマンの名前を覚えていないのですが、最初の方でベイトマン自身が、ポールは自分と服のセンスから行き付けの美容院まで同じであり、見た目はほとんど変わらないと独白しています。
と言うことは、ハロルドが食事を共にしたのはベイトマンだという可能性が……ってそれはないか。
いや、でもこの映画の全てが確信犯的にカラッポであり、これはこうだと断言出来るところなど一つも無いんですよね。
そもそも、ポールなんて実在しているのか?
そこからして妄想なのではないのか?
劇中でジャレッド・レト扮するポールはちゃんと出て来ますが、彼は実のところベイトマンで、二人ともベイトマン自身なのではないのか?
何故なら、同じルックスならば、違う証拠は名刺しかないんですよ。
それも、カラッポの。

そんなカラッポのアタシたちに残された術。
欺瞞まみれの、ストレスまみれの、腐った世の中を生き延びるための術。
それこそが、妄想なのであります。
さあ、今夜も布団に入って、あの野郎をぶっ殺そうぜ!

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