2015年7月19日日曜日

神々の前で、上書き保存は許されない 『新しき世界』

『新しき世界』(2013年/パク・フンジョン監督)
【あらすじ】
優しいヤクザに、冷酷な警察…俺はもう、潜入捜査を辞めたいッ!!

『新しき世界』はモザイク映画です。
モザイク映画なんちゅー仮称をすると、卑猥な描写を隠蔽するための「モザイク」が満載な映画を連想されるかもしれませんが、そんなハズがありませぬ。
語弊を招かぬように言い換えるならば、「コラージュ映画」と言った方が適切かもしれません。或いは、「リミックス映画」とも表現出来るでしょう。

では、『新しき世界』では一体何がコラージュ、リミックスされているのかと言えば、古今東西、数多のギャング映画クラシックスの「面白い部分」だけで構成されているのですね。
例えば、犯罪組織の後継者のハナシである『ゴッドファーザー』を筆頭に、潜入捜査官モノでは『インファナル・アフェア』や、アル・パチーノとジョニー・デップ共演の『フェイク』、さらにはチョウ・ユンファ主演の『友は風の彼方に』(クエンティン・タランティーノ監督の『レザボア・ドッグス』の元ネタ!)を思い起こさずにはいられません。また、犯罪組織の血まみれの権力争いを描いたジョニー・トー先生による『エレクション』二部作も影響下にあることでしょう。

要するに、まずギャング映画同好会らしきサークルがあると想像してください。もうサークルの会員全員、みんな死ぬほどギャング映画が好きで、死ぬほどギャング映画を観ているんですよ。で、ある日、一念発起の決心をするんです。「俺たちの観たいギャング映画を作ろう!」って。彼らはみんな自信満々で、うん、やろうやろう!って意気込むワケですよ。大好きなんだもん、ギャング映画が。ジャンルに関する知識も兼ね備えているし、何せ愛がありますから。俺らになら、それなりに面白いモノが作れるっしょ!という気持ちと共に突き動かされるんですね、映画制作に。あの映画のあのシーンはオマージュマストっしょ?とか、ねえねえ、生のコンクリートを飲ませたギャング映画ってあった?ねえ、無かったよね?そうだよね!え、じゃあ絶対やろうよドリンキング・コンクリート!やっべぇ、このアイデアはマジやっべぇー!とか、みんなでキャッキャ話し合ったんです。
で、出来上がったのが、この『新しき世界』なんです。(※この文章中には、一部フィクショナルな描写が含まれております)
「要するに」と文頭に飾っておいて、全然要約出来ていませんけれど(笑)

話を戻します。
ギャング映画の名作たちの「面白い部分」だけを繋ぎ合わせて作られたのが、この『新しき世界』だと言っても過言ではございません。
……なんて言い方をすると、まるで本作が名作の「いいとこ取り」をしたかのような印象を受けるかもしれません。いや、実際その通りなのですけれど(笑)、それでも、この映画は超絶に「面白い」のです
そんなこたぁ当たり前で、オモシロ要素で繋ぎ合わされた映画がオモシロくないわけないだろ!、と怒号を垂れる方がいらっしゃるのも頷けます。
しかし、コラージュの元がギャング映画という同ジャンルのモノとは言え、ここまで沢山のオモシロ要素を詰め込んでも尚、先の読めないスマートな脚本に仕上がっている辺りが、さすがは韓国映画の座組と言うべきでしょうか。
ホツレが無いんですよ、こんなに好きなモノを好き放題に足し算しているのに。
その点が素晴らしいですね。タランティーノの真似をして、好きな映画のサンプリングばかりを下手糞に行う監督たちに見習ってほしい!(笑)

しかしながら、これは『新しき世界』自体に是も否もありませんけれど、やはりコラージュやリミックスでは名作たちの壁を越えることは出来ません。
と、少なくとも私は感じました。
つまるところ、余計にクラシックたちの偉大さを思い知ってしまった、とでも言うべきでしょうか。

『新しき世界』の作り手たちからは、彼らが敬愛する幾多のギャング映画クラシックスたちを、自分たちの手で咀嚼し、昇華し、新たな名作を誕生させようと奮起しているのが感じられます。
しかし、私には彼らが、名作を「越えよう」としているとは思えないのです。
むしろ、「越える」という行為をおこがましいと認識していて、それらの足元にひざまづいて、まるで「供物」として「映画=『新しき世界』」を捧げているような感覚があるのです。
これこそが作り手側の「愛」であり、前述した歪さを感じさせないスマートな脚本作りも、このような感覚所以のものだと思っています。
だからこそ、『新しき世界』は老若男女誰しもが観てもチャント「面白い」ですし、名作の数々を思い起こして再見したくなるだけでも、映画好きにとってはソレだけで「面白い」作品になっているのです。

とまあ、ツラツラと駄文を羅列しましたけれど、兎にも角にも、ファン・ジョンミョンが演じたチョン・チョンですよ。もうね、チョン・チョン最高ですよ。可愛いよチョン・チョン。結婚してくれチョン・チョン。
かつて、ここまで気さくで、お茶目で、情にも厚くて、舎弟のことをブラザーと呼んで、そのブラザーからの着信にニコニコしながら応答して、そんでもってエレベーター内で血まみれバトルを披露してくださったギャングはいませんでしたよ。
果たして、この映画を観て彼のことが嫌いだと感じられる方が、この宇宙にいらっしゃるのでしょうか。
という極論まで私は提言してしまうほどにチョン・チョンの魅力にノックアウトされてしまいました。え?俺はチョン・チョンなんか嫌いだ?
テメェはケツの穴からコンクリートでも飲んでろヴァーーカ!

そんな究極の「オトコ萌え映画」でもありますので、男性諸君、並びに女性諸君、特に腐女子の皆様、つまるところ全人類たちよ、この映画のチョン・チョンを見ずして、棺桶に足を突っ込むかれ!!


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